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結論の背景

賃貸等不動産の範囲

 
21,企業会計基準第13号「リース取引に関する会計基準」(以下「リース会計基準」 という。)において、リース取引とは、特定の物件の所有者たる貸手が、当該物件の借手に対し、合意された期間にわたりこれを使用収益する権利を与え、借手は、合意された使用料を貸手に支払う取引をいうとされている(リース会計基準第4項)。
 また、土地、建物等の不動産のリース取引(契約上、賃貸借となっているものも含む。)についても、ファイナンス・リース取引に該当するかオペレーティング・リース取引に該当するかを判定するものとされている(企業会計基準適用指針第16号「リース取引に関する会計基準の適用指針」(以下「リース会計適用指針」という。) 第19 項)。
 ファイナンス・リース取引に該当する不動産については、貸借対照表上、貸手において不動産ではなく金銭債権等として計上されるため、賃貸等不動産には該当せず、また、借手においては固定資産として取り扱われるため、当該不動産が会計基準第4項(2)に該当する場合には、賃貸等不動産となる。
 平成19 年3 月に改正されたリース会計基準では、所有権移転外ファイナンス・リース取引について例外的に認められていた賃貸借処理が廃止され、固定資産に計上する売買処理に一本化されることとなったが、リース取引開始日が改正されたリース会計基準の適用初年度開始前のリース取引で、所有権移転外ファイナンス・リース取引と判定されたものについては、引き続き賃貸借取引に係る方法に準じた会計処理を適用することができるとされている(リース会計適用指針第79項及び第82項)。
 このため、借手が当該会計処理を適用している場合には、当該借手においてリース物件は不動産として取り扱われないこととなる。
 また、貸手が当該会計処理を適用している場合、当該貸手においては賃貸等不動産に該当することとなる。
 なお、オペレーティング・リース取引に該当する不動産については、貸手において、賃貸等不動産に含まれる。

22,不動産信託の受益者は、原則として、信託財産を直接保有する場合と同様に処理するものとされている(例えば、実務対応報告第23 号「信託の会計処理に関する実務上の取扱い」参照)ことから、その信託財産である不動産が会計基準第4項(2)に該当する場合には、受益者は賃貸等不動産として取り扱うこととなる。ただし、当該信託に係る受益権が質的に異なるものに分割されている場合や受益者が多数となる場合、各受益者は、信託財産を直接保有するものとみなして会計処理を行うことは困難であることから、受益権を当該信託に対する有価証券とみなして処理することとなるため、受益者は、その信託財産である不動産を賃貸等不動産としては取り扱わないこととなる。同様に、不動産又は不動産信託の受益権を譲り受けた特別目的会社が発行した社債や出資証券は金融商品である(日本公認会計士協会 会計制度委員会報告第14号「金融商品会計に関する実務指針」第21項)ため、賃貸等不動産としては取り扱わないこととなる。

賃貸等不動産に関する注記事項

 
賃貸等不動産の総額に重要性が乏しい場合
23,本適用指針では、賃貸等不動産の総額に重要性が乏しいかどうかについては、貸借対照表日に おける時価を基礎とした金額をもって判断することとしている(第8項参照)。
 したがって、当該判断を行う際には、賃貸等不動産の貸借対照表日における時価のみならず、総資産に関しても、賃貸等不動産の貸借対照表計上額と時価との差額(含み損益相当額)を勘案する必要がある。
 この場合における時価を基礎とした金額の把握にあたっては、一定の評価額や適切に市場価格を反映していると考えられる指標に基づく価額等を用いることができる(第13項及び第33項参照)。
 また、建物等の償却性資産については、適正な帳簿価額を用いることができる(第33項また書き参照)。
 なお、賃貸等不動産の総額に重要性が明らかに乏しいと判断される場合は、貸借対照表日における時価を基礎とした金額による重要性の判断を行わず、会計基準第8項の注記を省略することができる。

賃貸等不動産の概要
24,賃貸等不動産の概要を注記するにあたり、管理状況等に応じた区分による開示を行う場合は、当該区分と関連付けて記載することが適当である。

賃貸等不動産の貸借対照表計上額及び期中における主な変動
25,賃貸等不動産の貸借対照表計上額を注記するにあたっては、当期末における時価と対応するように、原則として、取得原価から減価償却累計額及び減損損失累計額を控除した金額をもって行うこととしているが(第10項(1)参照)、賃貸等不動産の貸借対照表計上額に資産除去債務が含まれるなど、当該貸借対照表計上額と当期末における時価とが対応しない場合には、資産除去債務の金額を記載するなど、追加的な説明を行うことが適当であると考えられる。
 また、「土地の再評価に関する法律」第10 条に規定する差額の注記(当期末における事業用土地の時価の合計額が当該事業用土地の貸借対照表計上額の合計額を下回った場合に、その差額を注記)を行っており、当該差額に賃貸等不動産によるものが含まれている場合、重要性が乏しいときを除き、当該差額のうち賃貸等不動産による差額を併せて開示することが適当であると考えられる。
 
26,賃貸等不動産の期中における変動には、取得、処分等による変動に加え、賃貸等不動産から棚卸資産への振替及び棚卸資産から賃貸等不動産への振替による変動も含まれることに留意する必要がある。

27,賃貸等不動産の期中における変動を注記するにあたっては、必ずしも増加額と減少額を個別に記載することを要しないが、変動額に重要性がある場合には、その事由及び金額を記載する必要がある。

賃貸等不動産の当期末における時価及びその算定方法
28,賃貸等不動産に関する合理的に算定された価額(第11項参照)は、自社における合理的な見積り又は不動産鑑定士による鑑定評価等として算定することとなる。

29,「不動産鑑定評価基準」においては、評価目的に応じて、正常価格、特定価格、限定価格、特殊価格が列挙されているが、不動産の鑑定評価によって求める価格のうち、賃貸等不動産の時価の注記を行うにあたって時価に対応するものは正常価格(市場性を有する不動産について、現実の社会経済情勢の下で合理的と考えられる条件を満たす市場で形成されるであろう市場価値を表示する適正な価格)であると考えられる。
 「不動産鑑定評価基準」では、この正常価格を求めるにあたり、再調達原価をもって評価する原価法(コスト・アプローチ)、同等の資産が市場で実際に取引される価格をもって評価する取引事例比較法(マーケット・アプローチ)及び将来において期待される収益をもって評価する収益還元法(インカム・アプローチ)の3 手法の適用により求められた価格を併用又は斟酌することとしている。

30,一方、特定価格とは、市場性を有する不動産について、法令等による社会的要請を背景とする評価目的の下で、正常価格の前提となる諸条件を満たさない場合における不動産の経済価値を適正に表示する価格をいう。
 このうち、「資産の流動化に関する法律」又は「投資信託及び投資法人に関する法律」に基づく評価目的の下で、投資家に示すための「投資採算価値」を表す価格を求める場合は、特定資産の取得時又は保有期間中の価格としての鑑定評価に際しては、資産流動化計画等により投資家に開示される対象不動産の運用方法を所与とする必要があることから、必ずしも対象不動産の最有効使用を前提とするものではないため、正常価格ではなく特定価格として求めなければならないとされている。
 このような収益物件の評価方法は、基本的に収益還元法のうち割引キャッシュ・フロー(DCF)法により求めた試算価格を標準とし、直接還元法による検証を行って求めた収益価格に基づき鑑定評価額を決定するが、この際、比準価格及び積算価格による収益価格の検証も行うこととされている。

31,収益物件の場合には、前項のようなDCF 法を重視した算定方法であれば、結果として正常価格と概ね一致するとの見方もあり、また、実際の収益物件の価格形成が収益還元法に基づいている場合が多いという状況も踏まえ、賃貸されている不動産の時価を開示するにあたっては、そのようなDCF 法を重視した算定方法も用いることができると考えられる。

32,「不動産鑑定評価基準」では、取引事例比較法における時点修正にあたっては、事例に係る不動産の存する用途的地域又は当該地域と相似の価格変動過程を経たと認められる類似の地域における土地又は建物の価格の変動率を求め、これにより取引価格を修正すべきであるとされている。
 本適用指針では、当該考え方に準じて、一定の調整をした金額等をもって当期末における時価とみなすことができることとした(第12項参照)。
 ただし、これは、第三者からの取得価額又は直近の原則的な時価算定による価額が適切に算定されていることを前提として、一定の評価額や適切に市場価格を反映していると考えられる指標に重要な変動が生じていない場合又はその変動が軽微である場合の取扱いである。
 したがって、当該指標等に重要な変動が生じている場合や稀ではあるものの取得価額につき合理性が乏しいと考えられる場合は、原則的な時価算定(第11項参照)を行わなければならないことに留意する必要がある。
 また、いずれの場合でも、第三者からの取得時や直近の原則的な時価算定を行った時から長期間経過した場合には、原則的な時価算定(第11項参照)の必要性が高まることに留意する必要がある。

33,開示対象となる賃貸等不動産のうち重要性が乏しいものについては、一定の評価額や適切に市場価格を反映していると考えられる指標に基づく価額を時価とみなすことができる(第13項参照)が、一定の評価額や適切に市場価格を反映していると考えられる指標に基づく価額には、容易に入手できる評価額や指標を合理的に調整したものも含まれる。
 また、建物等の償却性資産については、適正な帳簿価額をもって時価とみなすことができる。なお、容易に入手できると考えられる評価額には、いわゆる実勢価格や査定価格などの評価額が含まれ、また、容易に入手できると考えられる土地の価格指標には、公示価格、都道府県基準地価格、路線価による相続税評価額、固定資産税評価額が含まれる。

34,賃貸等不動産の時価を把握することが極めて困難な場合(第14項参照)としては、例えば、現在も将来も使用が見込まれておらず売却も容易にできない山林や着工して間もない大規模開発中の不動産などが考えられるが、賃貸等不動産の状況は一様ではないため、状況に応じて適切に判断する必要があると考えられる。

賃貸等不動産に関する損益
35,連結財務諸表において賃貸等不動産に関する損益を注記する場合には、連結損益計算書における金額に基づくこととなり、また、管理会計上の数値に基づいて適切に算定した額その他の合理的な方法に基づく金額によって開示することができる(第16項(1)参照)。
 このため、例えば、複数の不動産について費用等を一括して把握している場合など、賃貸等不動産の個々の損益を直接的に把握していない場合においては、連結損益計算書上の賃貸収益及びこれに係る費用を管理会計上の区分割合に基づいて配賦した額や、各不動産の連結相殺消去前の賃貸収益及びこれに係る費用に適切な調整を加えるなど合理的に賃貸等不動産の損益として把握した額をもって開示することができる。

株式会社玄同鑑定事務所
愛知県名古屋市中村区名楽町4-16
TEL.052-482-2641
FAX.052-482-4961
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不動産鑑定業務

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・不動産鑑定士2名
・不動産鑑定士補1名
・国土交通省登録補償コンサルタント2477号 
・(社)日本不動産鑑定協会会員 
愛知県知事登録第139号 

 

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